マレーシアにも「春の確定申告」のシーズンが到来しました。
「私は会社勤めなので、申告は不要」と思うのは全くの間違いです。日本の仕組みと異なり、マレーシアでは給与所得者も確定申告を必ず行わねばなりません。

慣れない外国での申告の手続きを行うに当たり、どんなことに気を付けたら良いのでしょうか。
MTownでは申告期間が3月1日に始まったのを機に、税務のプロフェッショナルであるフェニックス・コーポレート・アドバイザリーの日浦康介会計士にお話を伺ってみました。


日浦 康介
日本公認会計士

今年のe-Filing申告期間(給与所得)

2021年1月1日から12月31日(これを2021年賦課年度、という)の所得等について、22年3月1日から4月30日までに申告手続きを行う(15日延長可)

申請はオンラインで

マレーシアで確定申告に当たる手続きはe-Filingと呼ばれています。
収入を得ている個人は、自営であれ会社員であれ、原則申告を行わなければなりません。

手続きは、税務署が開設しているezHASILというウェブを通じてオンラインで行います。
「仕組みがわからないので税務署に足を運んで申告しよう」というマレーシア在住の方もいらっしゃり、その場合、コロナ前までは税務署職員のアドバイスを受けながら窓口にあるパソコンに必要事項を入力することも可能でしたが、今は閉鎖されています。

「初めてなので不安」というときは、所得がいくつかある、マレーシア以外で受けている所得もあるなど複雑なケースでなければ、自社のマレーシア滞在歴の長い日本人に聞く、あるいは総務や庶務の仕事をしている現地社員に方法を尋ねながら入力すると良いでしょう。

なお、初回のみ、ログイン時に必要なPINナンバーの取得が求められます。
これは、税務署に出向けばその場で交付されます(ネットでの交付申請は、承認まで7日程度かかる)。
必要書類は、パスポートとCP55Dというフォームです。

コロナ禍影響で控除可能項目が増加

e-Filingを行うに当たり、個人に認められる「所得控除」について理解しておきましょう。これはそれぞれの納税者の「個人的な事情」を加味して税負担を調整するもの(日本の国税庁説明より)、と定義されています。一定の要件に基づいて、自身の所得から必要経費のように差し引くことができます。
21年賦課年度の所得控除項目とその控除額は以下のとおりです。

・基礎控除 9000リンギ
・配偶者控除 4000リンギ
・扶養控除(18歳未満の子供) 2000リンギ
・扶養控除(18歳以上で、未婚、且つ子供が大学就学の場合) 8000リンギ
・配偶者が障がいを有する場合 5000リンギ
・子供が障がいを有する場合 6000リンギ

・生命保険料控除 最大3000リンギ
・EPF拠出金控除 最大4000リンギ
・退職基金・年金拠出金控除 最大3000リンギ
・医療保険料・教育保険料控除 最大3000リンギ

・幼児控除(保育園・幼稚園へ支払った費用) 最大3000リンギ
・幼児控除(授乳器具等購入費、2年に1回) 最大1000リンギ
・ライフスタイル控除 最大2500リンギ
*これは、私生活をさらに充実させるために、スポーツ用品購入やスポーツジムの会費など、私用のPCやタブレット、スマートフォンの購入費、書籍や雑誌の購入費、インターネットの使用料金などを含む(デジタルデバイス等は新品だけでなく、中古品でも可)

さらに、21年賦課年度には特にコロナ禍による影響を考慮した控除額が設定されています。

・健康診断料控除(PCR等の検査も含む) 最大1000リンギ(20年賦課年度は最大500リンギ)
・ワクチン接種費控除 最大1000リンギ(20年賦課年度は無し)
・医療費控除(重病、不妊治療の場合) 健康診断料控除・ワクチン接種費控除を含めて最大8000リンギ
・21年賦課年度については、私用のPCやタブレット、スマートフォンの購入費について、「ライフスタイル控除」に加えて、さらに追加で最大2500リンギまで計上できることになりました。
*さらに、スポーツ用品の購入、スポーツジムの会費等は最大500リンギの追加控除が認められる

旅行代金も控除対象に

観光業界の活性化のため、年度内に国内を旅行した時の指定ホテルでの滞在費用、および観光地入場料については最大1000リンギの控除が認められます。なお、国内旅行で利用したホテル、観光地は文化観光省(MOTAC)に認可を受けている施設であること、という制限が付いています。

申請の際、注意したいこと

オンラインで申請手続きを行う場合は入力事項の間違いにはくれぐれも気をつけてください。

特に、自身のメールアドレスや口座番号の間違いを起こすと致命的です。
本来もらえるはずの税金の還付に時間が掛かる、記載事項の訂正を求められたときに対応できないなどの問題が生じかねません。

口座番号はカードの表面にある16桁の番号ではなく、銀行から交付されている本来の口座番号を入力してください。

控除対象になる領収書などの帳票類の提出は基本的に求められません。
ただし、税務調査の対象になる可能性がゼロではないこと、また過去7年度分の関係帳票類を保存しておくこと、という規定もあります。

国境を跨いで業務に当たっている方へ

マレーシアで所得控除を行う対象者は、税制上のステイタスが「マレーシア居住者」である人、と定められています。通常、暦年(カレンダーでの1月1日から12月31日)のうち、182日以上マレーシアに滞在した個人は税制上「マレーシア居住者」となります。

ただ、コロナ禍のあおりで、マレーシアでの滞在日数が182日を超えなかったにもかかわらず、マレーシア法人から給料をもらっていた、入国に時間が掛かり日本でリモートワークをしていた、あるいは日本とマレーシアの両方で確定申告が必要になりそうなケースなど、国境を跨いで仕事をされている方は例年とは異なる対応を検討すべき場合があります。
そういったケースに該当する場合は、マレーシアと日本の両方の税務実務に精通した専門家に手続きの方法を確認することをお勧めします。

そのほか、税務上の手続きで何らかの困難や不明な点があったら、自身で解決しないで、専門家に意見を求めるようにしたいものですね。

Phoenix Corporate Advisory
Malaysia Sdn. Bhd.
Level 22-01 (East Wing), Q Sentral,2A, Jalan Stesen Sentral 2, KL Sentral 50470 KL
TEL:03-2276-6388
E-mail:info.my@px-acc.com